2017年6月1日更新(69号)
疾 風 鈴木 禮子
余剰のものみな脱ぎすてし花鉢をいくつ並べて冬の庭先
開花宣言八日遅れて発せらる人の都合に合わぬものたち
海棠に姫リンゴいま始動して芽吹く若葉は
実芽をば抱く
息止まるほどに万朶の桜ばな散り交ふ昼を父に抱かれき
「夜櫻や狂ひて見たき花篝」一句遺して夫還り来ず
お嬢さんだった母なり顔見世をいたく好みて落語は知らず
清水房雄氏百一歳で逝きたまふ老いの繰り言歌はぬ潔さ
生きざまの清々たるを眩しめば歌人巨星の如き耀き
氷上で息絶え絶えのスピンあり飛沫けぶれる華のアリーナ
(羽生結弦、世界ジュニアフリーで歴代最高。)
錐に似て錐にはあらず一点へ 揉み込みてゆく推力凄き
【
剣チャン】と呼ぶ米国の子がをりて下駄鳴らしつつ花に触れゐし
ひとことに歴史と呼べば遥かなる時ありしのみ残るはひとり
過ぎ去りし
皇紀はまことに遥けくて年賀葉書は止めむとの文字
茨木にめでたきつどひありしかど
三人のこりて編む
歌草紙
読ませるよ「火花」やたらにジンと来た久方ぶりに胸揺すられて
お笑ひの芸人ゆゑに呼び名まで二段重ねと思ひゐたれど
さうなんだ芸名なんだ
又吉のまことの名こそ
又吉直樹
本名はマタキチナオキでなかったと妙にほっこり温もるこころ
心底を述べむとするにコンビニでノート買ふとぞ清清しくも
升目ある原稿用紙に目もくれず「コレモ有リ」とて振り向かざりき
書かむとする
小説の稿はノートへとすんなり決めた 規定は崩せ
わが記す短歌初稿はビラの裏リングで止めて束ねたるもの
書留むる
三十一文字は夜の更けに舌で鞣して仕上げし裸像
煽られて
花水木舞ふ 花桃は疾っくに散ってもう振り向かず
疾風のなか一団のむらさきは
十二単ぞ花の兵隊
わが友が第五詩集を送りきぬ青き花々
額にかざして
短歌にはあらぬ
間をもつ調べなり目にも耳にも鮮やけくして
そのむかし吾の記せし詩片あり『雨夜の隊列』潤みてあはれ
身の丈にひたと添へるは短歌にて「好きよ」と言ひし友ありしこと
短歌を書くあかとき不意に猫は来ていつ時もなく影を消したり
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