2017年6月1日更新(69号)
歳月遡行 村上 豊
冬さりて東北地方も佳き季のまちこがれたる四月となれり
冬中のたくはへしもの乏しくて乏月とこそ今のうつつも
催花雨のやうに
情を沾してジュティムジュティム囁き唄ふ
齢たけて手足冷ゆるも 爬虫類巨大蜥蜴に
化るかいよいよ
「ブラタモリ」と府番組で熊本を放映したりそのあとの
大震
熊本の大震災の映像を三・一一にかさねおののく
エコノミー症候群と名付けられ車中避難の老女他界す
大震のあとに大雨 避難所をかはる
婦の場ちがひな
暴言
わが
人生交響曲なら四楽章彼岸の父母より年上となり
空晴れず憂きこと多く篭りゐて庭にはびこる禾本科植物
漢らが山賊料理囲みしが生きてゐるのはわれいちにんか
秋まひる買ひて心の小暗きは『男のおばあさん』著者は亡きひと
弾く弾む辞書ひきてゐて日本の古色に遭へり
黄櫨色と読む
曇天のまま暮れむとし厚き雲はじき出したるほうずき夕日
なぜ詠ふ?答へ茫々朝起きて頭脳元気か打診のためも
みぢかうた
愛しみこめて友は言ふ哀しき玩具と啄木いへり
ほととぎす身に相応の
短歌擬き三十一音ならべばよろし
短歌には悲傷を融かす力あり伴侶他界のひとにすすむる
青年の
縹色の着物さはやかに風炉点前のおうすいただく
沈黙の
衆とみゆるもおしなべてスマホを弄ぶお喋りな指
雨がちの黄金週間篭り居は「勝ってうれしい花いちもんめ」
地の塩を邃き窖よりはこびだす夢にしてわれも奴隷のひとり
ポスターの爪先立ちの
白鳥姫いつか飛ばむと天仰ぎいつ
烏賊の歌詠まむと勢ひゆきしかど魚売場にけふ入荷せず
礼子氏とふ得がたき友の授かりしうすき短歌誌『高架線』とは
ある時期は歌人歌論もあつまりてさながら梁山泊の風貌なりき
筍が鬩ぎ伸びゆくやうに出てわかれゆきしか
歌人たちは
最後まで残りゐたるにわれ聞かず
歌兄は言ひしと去る者追はず
流行語大賞といふ「爆買」の羨むやうなさもしきことば
中国の汚染空気の覆ふとき九州の友の家に訃ありぬ
いのちあるうちに鳳凰舞ふやうな時代のくるか
否 否 あらず
晴の日は
強東風となる
東北地方のどっどどどうど烏とばさる
やはらかき若葉いつしか面変り青葉
灼く
壮丁貌となる
濃繁りゆこぼれてきたるひとひらに異称
花残月うべなふ
考妣は踏みしことなき長命の坂路けふも健やかにゆく
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