2005年3月1日更新(20号)
赤き風船 矢野 房子
ひたひたと水を打つなり 庭石の冷たく濡れて猛暑日暮るる
橋下のうず潮めぐる青き海 われの余生にいまだ迷へり
肩の力おろさむと又も意識せりゆとりの老後まだ遠くして
雨音を聴く朝なればなほ更に楽しみとなる歌書読みすすむ
料理せぬその手は色紙折る事を
怡びて居りホームのひと日
いろ紙を個々に選べばその人の色の匂へる人間模様
いくたりの出逢ひはあれど一本の真紅のバラは
慈しむべし
香を放つカサブランカの大輪は今日の主役ぞ藍物敷きて
漆黒の
晨の
社に集ひたり寒気の中を背すぢのばして
しんしんと
杜の静寂を貫くか神招(を)び歌のひびきわたりぬ
いまだ暗き杜を去りたり充たされて友らと手をとり熱くなりつつ
朝八時出雲大社の神官に合はせ斉唱す「君が代」を高く
土佐ゆ遠く流れきしとふ丸木舟先人の念稲佐の浜に
最古なる
神魂の杜の女坂のぼりきて赤き落ち葉に出逢ふ
八雲たつ出雲
御柱その跡に立ちて天空に宮居顕たしむ
神さぶる神魂の宮のたたずまひ侘びしみじみと坐して
礼せり
十月を
神有月といふ国の古き世いかに神祭らひし
君のいふコスモス色の
珠玉はめて雪しげき道もかるく踏みゆく
春来れば赤き風船放たむかシャンソン流す
夜の穏しく
久々の手作り
雛 乙酉と生きむと思ふ証の如く
冬の陽をあびて豪華にシクラメン紅一面の便りを書かむ
怒る事もうどうでも良いくたびれて目覚めの
朝老いは安けき
最終の「北の零年」に立たしめし気高く強き
女に息のむ
あざやかに彩めく
洋蘭の会場にひとみ張りつつ溜息をする
清楚なる折鶴蘭は窓の陽に息づきてをり われには相応ふ
霧の音風の音にも惚れるとふ肱川あらし去りてあゆ漁
河口の町なればこそ夜の炉端けぶらす鮎の立焼き並ぶ
霧走る白き川面をまぼろしか舟一艘のすべりゆく朝
歌集「凪」の九人の友と訣れたり残りし者は皆老いを生く
若き日に集ひし「凪」の二十余名おとづれ聞くはただ
三名にて
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