2004年9月1日更新(18号)
蜃気楼 矢野 房子
南極の白一色の雪世界彩光あはれ顕つ蜃気楼
極夜あり大日輪とオーロラと
彩舞台なる南極の基地
放映のダライ・ラマふと振り向けるその時顕ちし父のぬくもり
満洲を識るひと来り想ひ出の地名・駅名語れば熱き
ひと世来て難ありしことも透明になりゆけるままわが
歌生る
初雪の庭まぶしかり しばし居て
佳事のごとく夫に告げしを
松二日友の訃報を疑ふに慟哭しゐつ 何といふこと
何時もいつも貴女は若いと讃へこし友突然の痛き旅立ち
二十歳年下の友と女性論語りてつまりわれのみ熱し
丸くなれ光あれよと放つ文字このまま呑み込み自分を生きやう
目覚め早く三日ぶりなる水仙は若芽のみどり瑞々と立つ
Vサインして直ぐ立つ若芽水仙よ地上に産声聞かむま近く
初植ゑの水仙芽生ゆ小さき生に思はず拍手で迎えてやりぬ
新潟の酒よとくれたる友に対きひとときを酔ふ盃みたしつつ
唇を濡らしのみどを通る
越酒一味ちがふと
互に言ひつ
二人だけの話はづみて息合ひてとどのつまりは歌を愉しむ
葩に
対き絵皿に
彩をつくりつつ優しくなれる 自分になれる
みづみづと碧きあぢさゐ描かむとし
白衣展げ一気呵成に
衣(きぬ)に描く染料揃へ試したる一歩二歩ありいつか混沌
多羅葉の固き
葉面に何書かむその
一言は単純がよき
光のみ語らむばかり咲き放つ大き
石楠花に恥ぢたりしばし
鉢植ゑのしゃくなげ赤き朝なりき絵筆自づと紙に跳ねゐつ
夫はきっとかう言ふらむと思ひつつ結局われの都合のままに
行き馴れしフランス料理の灯は消えて友等と出逢ふ場を失ひつ
霰打つ強風のなか
老人園への奉仕の気魄たちまち屈す
イラクの上に神風吹けよ自衛隊と部族の対話に笑顔無ければ
「はごろも」とふつばき一本卓上にありて
葩舞ひたつは何時
五日目にうすべにの貌つややかに椿の花の静かなる力
女らしと云はれしわれを遠ざけて酔ふ事知らぬひとり
盃
庭隅の自生の
楠の若葉ひかり未来の王者になるかも知れず
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