2001年3月1日更新(4号)
不機嫌 月山 幽子
少年の
垣間みせたる不機嫌を醗酵するまで気長に待たむ
初夏の膝 倦怠の時間をつきぬけて欺くまでに大き枇杷の種子
くねらくねら吾に逆らふ赤なまこ春の感傷見下ろしいるも
溶けそうな春の湯浴みに脱皮して昆虫よりも単純化せむ
空瓶に鬱の限りをつめたれど重さ変わらぬ仕掛けをわらふ
冥界の水
火のそばのキャベツひそけく脱水し空にあふるる
初夏の水
果て知れぬ階をくだれば冥界の水にただよふ未生のヴィールス
指先の蕗の香りの中枢をゆさぶり青き液体の湧く
なかなかに蕾ひらかぬ芍薬を自閉の性か息吹きかけむ
除湿機に水あふれきぬ乾性と思ひしものの淡き裏切
仮 眠
ほの甘き背徳のねがひ汗ばめる素肌に絹のブラウスまとふ
悪を恋ふ指もてレモンに触れしかば指紋は黒き色を帯びきぬ
色の無き野菜ばかりを料理せり
脳のなかに殖ゆる黒点
保護箱に仮眠をとれる宝石は指を求めて苛立ちてをり
躁すぎる蜜蜂一匹 あまき香の食虫植物めざして飛べり
ルビーの残照
月の夜にえのき
茸のそよぐなり甘き香りに人は眠れぬ
雑音に歪んだ壁の一点にルビーの残照うづくまりゐる
深更に薔薇は仮面を脱ぐならむ例えて言はばのっぺらぼうか
あまりにも枇杷はたわわに 無精子の男の視力乱るるばかり
消しゴムで短歌消すとき聊かの快感ありて血の巡りだす
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