2001年3月1日更新(4号)
をがたま 鈴木 禮子
身を削ぎて言葉捜せる詩人あり遊びの域を越えしばかりに
荒れし墳墓暴けば見ゆれくさぐさの古銭に鏡、刀剣の類
神として祀れば護り賜はむか遣る瀬なかりし暦日つもる
百済国の裔なる人ら詣で来つ故国重ねて朱の平安社
をがたまがねっとりとした香を放つ奔馬霞の奥に消ゆれば
冬の断章
いさぎよく葉を落したる木々のあり一つ決断をなさむとするに
口を閉じこころとざして見るものはもの語らざる杳きひとかげ
人は皆寂しきものか掘り起す
土塊硬き冬に入りゆく
決断を重ねて今日もい行くのみ引けば潰るるわれと思ひき
若ければ行きて迷ひし樹林帯
氷室の山に雪降るらむか
一夜茸
「風わたる」とふ言葉思へば
中空にをみなご笑ふ身を撓めつつ
いきのよき鰻の尻尾を握る如き
一文に逢ふぬめぬめとわれも
ジジジジと五首の歌草とどきたりファックスは吐く君の指まで
一夜茸自らが負ふ約束をぴしりと決めて朝に萎えたり
誰それが病むとふ話つづまりは凄惨として冬の夕焼
鋳 型
夜半に覚めて余禄のやうな時を得ぬ追ひつめてゆく短歌の鋳型
短歌のかたち整へたれば翳り出す歌の鮮度の気難しくて
煮えあがり湯気たちあがる歌ひとつつくらむよ否觸れたきものを
たわいなき齟齬いつしかに解けがたきしこりとなれり山にこもらむ
「愛憐無限」の碑一つ思ひ出づなぎさに近き砂山の蔭
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