2007年3月1日更新(28号)
大き熊手 鈴木 禮子
紅葉の遂の
一葉となるまでを見届けてをり寒き日暮は
産業祭で大き熊手を購ひつまことに熊の手に似たるもの
虹色の葉牡丹の苗植え込めば春を招ける神事かこれは
石蕗が木蔦に追はれ場を替へぬ植物の識る棲み分け理論
在り在りて語り合ひしもえにしなり茫々として玄冬に入る
降りくる
短歌書き留めて深夜あり生きのすさびも様変りして
書きとむる歌のゆくたておのづから繋がり合ひし地平あらたに
わが歌を枕頭に置きて読みたまふ人ありと知り涙出づるも
小さくも(
種)と呼ぶ花の一群に光あまねし冬至のすみれ
うねりたる川にまねびて歌詠まむ溢れんとする力撓めて
役に立たぬものは愉快と画材にし画家は追ふかも夢の
極を
珠を磨く言葉をみがく歯をみがくひたすらといふ
行為のスリル
日暮里とふさびしき地名 いもうとの新居ありしが疾く昏れ果てつ
来年も生きゐると思ふわれにして蔵ひこみしは花の種なり
四月をばむかし
四月と人呼びき死を拒みては編みし知恵にか
伝承は耳をくすぐり混沌の岸辺にわれもしばし止まる
書かざれば日も夜もあらぬ病とぞ作家と名乗る異能のひとに
若き人の書く喪失のものがたり隠蔽すべき暗さを持たず
美しきものを讃へし時すぎて花火はいつか殺傷の武器
処刑者は縄縮めしと記されぬ従容としてサダム・フセイン
人の寄れる暮の
数日は箸伸びて賑はひ見せしキッチンの卓
again と口々に言ひ幼らは乗り込みゆきつ霧ふる国へ
稲荷社の門前市で食うべたる広島焼きは
赤毛男が焼きし
老いしものにひたと寄り添ふやるせなさ使ひ捨てなる時間と夢と
愛しまれ育ちたる日の
淡淡と立ち上がりくる立春前夜
働かざれば夜の眠りもとぎれたり唯しらしらと
一夜茸輝る
深閑とうごかぬ樹木、永遠と名づくるものを見しかとおもふ
寒に入る前の静けさ トロトロとストーブは燃えたった一人で
ここ過ぎてまた途切るるか
短歌の時 時空の果てに見えずなりたり
みづからを越えゆくものは目に熱し見上ぐれば高くみどりなす樹々
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