2006年6月1日更新(25号)
七瀬川(30首詠) 矢野 房子
迫りくる氷河はまさにるり色の光かへせり その瑠璃に逢ふ
碧き空のニュージーランドのミニ飛行
亡夫も虚空を共に渡るよ
雨にけぶる花街の灯を見やりつつ御忍びのごと三味の音聞きつ
同い年をこれで幾
人見納めしなす事多きかわれ残さるる
痩せたしとふ希ひに反し美味しいと独り言云ひ飽食をする
ひと日終り電気毛布に足を延ぶ平穏か否かこの
間のしばし
夜となり横臥のままに歌集よむ独りの長き学び始る
一人居を永く経ぬれば死神のせめて
腕のやさしくあるべし
大西日に動くフィギュァーの影を見て靴履き結ぶ手のかぢかめり
フイギュァーの靴を下げては登校すかの日を語る友とは疎遠に
敷石をもたげ出でたる竹の子を丈伸びるまで育てしといふ
七夕にクリスマスにと竹に飾り庭おりおりの賑はひとなる
ねこ柳の壷に群立つそばに居てやさしくなれり友と語るも
炭火赤き大き火鉢に迎へられ雛ありまさにタイムカプセル
雛の顔の好み
互にのべ合ひて古き一点に還りゆく友
火鉢かゝえし遠き生活蘇る 話はづみて友が母屋に
雛日も無きように来し過ぎ来しの今戻りたり幼心を
仰ぎたれば粒かとまがふ小さき花その花房に
春光まぶし
木五倍子とふ花房一枝手折りくれ又の契りに
嵐山を去る
愛宕山は真近にありて風を聴き
彩貰ふとさりげなく言ふ
鰈の身をほっこりつまむ一口の甘味さすがに香住の海の
桜木の古木をなべて伐採せし河川敷なり
敷石見はるかす
七瀬川の長き土手道爛漫の
櫻花のまぼろし五年を経たり
花わらひ人ら笑ひて
並木の下の土踏みて行く夢を見たりき
昔、花の並木ありしと語らむかいやすでにもう淡々とあり
さみどりの桜並木を前に建つ洋間ばかりの孫が新居は
小さき指よく動きゐてあやとりの赤き毛糸をあやつる曾孫
こでまりの白きが見えて独り家に久々にして帰り着きたり
足痛は二の次にして役果たす 小さき
佳事も明日に繋げむ
人並みに
携帯電話持てば夜更けまで孫の特訓されどもどかし
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