2003年3月1日更新(12号)
既視感 月山 幽子
新しき町を歩むも既視感にくもの巣状にからみつかるる
透しもつ白磁の器虫の息ほどにかそかなひびを秘めゐつ
禁欲はうちなるしじまのプラシボー神経症と笑ふ友あり
発芽せぬ種子かもしれぬに播きにけり疑ふことに節度をもたむ
喜びの大きすぎるに疲れたり無為に過ごさむ早春の夜
スイッチ・オン
透明なガラスの瓶に燃えながら沈みてゆきぬある日の落暉
スイッチ・オン電気ながれず現身に拒みしものは春の
倦怠
おほぞらに雲居路いくつあるならむ ほのあかりせり春の兆しの
浮遊せる概念までを占めつくすナノテクノロジーに息のつまれり
ものだまりせる一隅の部屋にあり形なけれど触感つよし
非情に乾杯
内耳まで
脳の流れさうな夜ルナに放ちぬ毒ぬりし矢を
脳葉はインフルエンザにかかりしか悪寒けいれん思考の乱る
われを指し可哀さうな兎さんと呼びにし少年めとることなく
首が飛ぶ青い炎をひきながら首に似合へる体を求めて
みにくきを鏡よ鏡くるひなく映してくるる非情に乾杯
不思議な縦軸
砂時計横にねかせば時とまりわれはふしぎな縦軸にゐる
ひとところ激痛はしりそのあとに泉の湧きて春のくるべし
快き音のひびきの目覚しは眠りの水深ふかむるばかり
友達のその友達は醜なるにサンスクリットのラブレターくる
あら塩は迫力ありぬ魚にすむ寄生虫をも殺めむほどに
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