2002年3月1日更新(8号)
筋子 鈴木 禮子
夕されば微醺の人とならむかな『
越の初梅』賜びしひとあり
重版の詞華集ひとつ見出でたり忽ち薫るいちりんの薔薇
ひそかなる恋うたをこそ聴くべかりはるけき星の囁きとして
艶めきし筋子裂きゐる細き指新潟生れの母わかりき
うしとらのかたを真白き霧とざし不安は常に影をともなふ
寂しき背中
歳末の夜(ヨル)の雑踏ゆくひとの寂しき背中いつか逢ひしか
『蛍の光』の古曲ながれてすぎの戸を開けて出でゆく濃き闇のなか
夜しぐれの音にも似たる女人あり寂しきうたを遺して果てき
落葉舞ふ
弘法市にいざなはれ話かはせしことも忘れぬ
ビンラディン生きてあれよと詠ふひとありて骨あり時流に乗らず
群れ連なりて
真顔にて底の割れたる嘘をいふ嘘は人間の欲望ならむ
上方の世すぎのすべと
強かな傷負はせらる負け犬として
居丈高に潰さんとする物言ひを憐れみゐしが余憤やむなく
おのづから群れ連なりて楽しきか学閥、門閥、はては閨閥
森閑と過ぎ行くはなに息つめて問はば明るむ闇とおもはむ
芽吹き
人それぞれ何か杞憂をもつものと思へば穏し冬の落日
暮れなづむ最寄の駅に降りたちぬこの道ゆかば主婦なり常に
海紅豆の花を見たしといふ短歌思ひは深しみちのくの地に
花粉症の猫がくしゃみをする夜更けアンデルセンが目を覚ましたり
ひそやかな欅の嫩芽ひかりをりいま世を挙げて再生のとき
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