2000年9月1日更新(2号)
光源 鈴木 禮子
絞り出す如くに歌ふざれうたは伴侶か夏のむらさきぞ濃き
わが命の光源としも思ひゐる歌便り来ずいくつきか経し
二世バラ原種に還り誇らかに咲けり深紅のつゆけきいろに
あの形ふと思ひ出すあのしぐさ纏はりていま
海中にゐる
竹群は山の狭間に並み立てりいさぎよしその若萌のいろ
からすうり
烏瓜の蔓するすると延び出でて当然のごとく幹に巻きつく
みづたまりばしゃんと踏める幼子は笑ひ止まずも何か
解けし
をさなきは幼きままに満ち足りて自づからなる鼻歌をする
蝉が鳴く七月なかば太陽と競り合ふものは
心火を燃やす
をさなごは走りまろびて我に来る天上天下一本の道
八方破れの
知らされざりし負け戦あり済し崩しに敗戦へ向け雪崩れゆきしか
隣国のいくさの特需こぼれきて富国となりぬ寂しき極み
厚底の靴に真白きアイ・シャドウ朱色の髪は何族の裔
くさぐさの祈り溢れて盆の日や異界の扉幽かにきしむ
ランナーなし九回の裏
2アウト八方破れのなぎさが
退る
一炊の夢
面会謝絶手も足も出ぬ長病みと風の便りに聞かされて居り
人間苦にまみれて見せしほほえみを包みて癒す人のあらじか
つづまれば人は独りと知りながら愛恋の歌伝へやらまし
死ぬるときは独りで死ぬが良かるべし
病 ゆゆしき長兄が言ふ
描きたるも描かれし人も死に絶えて係累もまた一炊の夢
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